日本の和服・作務衣を専門に追求した「作務衣博物館」

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カタログ和服こぼれ話

緑茶染作務衣(りょくちゃぞめさむえ)


職人が、茶処は静岡の県産業技術センターの協力のもとに作り上げた、茶葉染作務衣「掛川」から5年。満を持して、この夏、緑茶の微妙な緑にこだわった新作「緑茶染作務衣」がデビューします。



かつて、3年もの歳月をかけて完成させた茶葉染作務衣



静岡県西ケ崎の八代目が「お茶染め」に挑戦し。3年もの歳月をかけた茶葉染作務衣「掛川」は、完成まで何度も試作を重ねました。



何しろ一着に一キロの一キロの茶葉を使うため、お茶の手配から始まり、そしてその後、お茶の煮出し、2時間の漬け込み、媒染1時間を4回繰り返す等、まさに気の遠くなるほどの手間がかかりました。



さすがに完成品の出来栄えは見事の一言に尽きましたが、当時は数多く作ることができず限られた皆様にしかお届けできない状態でした。

もう「お茶染めの作務衣」はないのかとお問い合わせ、ご要望を頂く度に、心苦しい思いをしたものです。



茶葉染めの経験を生かした新作緑茶染め。



ご要望には何としてでも応じさせて頂く、それも間に合わせでないものを…というのが当会の技術と心意気。前回の経験を生かし、着々と準備を重ね、新茶の登場を待って、新作発表にこぎつけました。



鮮やかな、香り立つようなお茶の緑の再現。緑茶染めならではの健康的な肌触りは、まさに緑風をまとうような着心地です。





味わい深い素朴な色合い…上質のお茶から生まれた「緑茶染作務衣」。



天と地と人に育まれ…八十八夜に摘まれし香り高き緑茶。今、各方面で注目を集めている、緑茶そのものから染め上げた作務衣が完成しました。



お茶の香りがしそうな上品な作務衣です。

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西ケ崎から、新しい風。「辻村染織のお茶染め」(7)


何だかお茶の香りが漂ってくるような、素朴で上品な色合い。



以上、駆け足ながら工程を見せてもらった。しかし、まだ完成品を拝見していない――。

「いやあすまん。工程を経てから見て欲しかったもんでな。少しじらしすぎたかな…」と七代目。そこへ啓介さんが、一着の作務衣を抱えてやってきた。



スタッフから期せずして声が上がった。先ほどの糸の段階で見た黒っぽい感じはきれいに消えていて、実に味わい深い“茶色”に仕上がっている。少しザラッとした手触り、表面にボツボツした加工がしてある。



「ネップ加工をしてみたんです。作務衣の良さは、様式や色と並んで肌にふれる感触や素材の手触りにあると思いますから、ゴワゴワ感やザラッとした感覚は大切だと思いますよ」と啓介さん。そう言えば、七代目の代表作“刺子作務衣”も…。

「茶染めの新しさだけに甘えちゃいかんということですな」と、七代目がピシリと決めた。



しかし、何とも素朴で上品な色。何だかお茶の香りが漂ってくるような感じ。これなら文句なしである。



「申し訳ないと思ったけど、自信があったのでもう作り始めているよ。というのも、かなり日数がかかるし、茶の大量仕入れの関係もあったからね…」

それは大助かり、手作り作務衣の悩みは、注文殺到時の供給が追いつかないことだからだ。



夏季的な茶染め作務衣の開発。しかも、この質の高さは驚異的。



「趣味や同好会などで個人的に茶染めをやっている人はいるかもしれないけど、茶染めの作務衣ってえのは聞いたことないな。まず初めてのことだと思うよ」と七代目。啓介さんもウンウンとうなずいている。



常に作務衣の質的な向上と広がりを求め続けている当会としては、今回の本格的な茶染めの開発は非常にありがたい。しかも、初めてにしてこの質的レベルの高さは、啓介さんと七代目に深い敬意を表したい。



それもこれも部屋の片すみに積んである試作品の山に尽きるようだ。

「いやあ、これは人に言うことじゃないですよ。自分自身のためにやったことなんですから…」と謙虚な啓介さんだが、思い込んだら一すじの妥協を許さぬ性格が、この成功を収めたと言うべきだろ。



来年の八十八夜に向けて、早くもお茶の手配を…



今後、西ケ崎では、藍染めを七代目、茶染めを啓介さんの二本柱で展開してゆくという。

「来年の八十八夜に向けて、材料であるお茶の手配にもう頭を痛めていますよ」と啓介さん。幸いに、この茶染め開発には、掛川の農協関係者も注目していて、協力を約束してくれているという。



七代目、立派な跡取りができましたね――と水を向けると、「なあに、まだまだひよっ子だよ」と照れた。

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西ケ崎から、新しい風。「辻村染織のお茶染め」(6)


タテ糸とヨコ糸の割合をイメージに沿って計算する。



天日干しした糸をいよいよ織り機にかける。ヨコ糸は少し濃い目にタテ糸は薄目に…。

「その割合は倅が計算するんだ。ただ織りに関してはワシにも多少の出番はあるな」と七代目。啓介さんも、「よく相談しますよ。やはり、おやじの経験は貴重ですからね」



啓介さんのイメージにある色を実際に織りで出すのだから、タテ糸、ヨコ糸の割合はデリケート。二人で額を寄せ合って考えている。



「染めの色が均一な科学染料なら一回決めちゃえばいいんですが、手染め、糸染めですから、その都度細かなチェックをいれてます。それに、これまでずいぶん織ってきましたから、だいたいのカンは身についてます」



手織に近い速度でゆっくり糸が織られていく。

こうやって織り上げられた生地を、ワッシャーで丹念に洗う。この段階で、茶染め本来の色が姿を現すわけである。これでもか、これでもかとワッシャーにかけることで色落ちも防げる。



最後に、この生地を縫い、いよいよ完成となるのだが、啓介さんの仕事は一応これで終了。あとはプロの手による縫い上げを待つばかりである。しかし、ほっとする暇はない。山のような白い糸が、啓介さんの染めをじっと待っているのだから…。

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西ケ崎から、新しい風。「辻村染織のお茶染め」(5)


漬け込み2時間、媒染を1時間。これを4回繰り返す。



漬け込みを終えた糸を次のカメに移す。ねずみ色かかった黒い液。

「これが媒染液、鉄分を混入しています。この液に漬けておくと鉄分の働きで、染付けが良くなるんです。つまり、色がくっつきやすくなるんです。ここで染付けの堅牢度を高くしておかないと、色が濃くならない上に、洗うと色落ちの問題も出てきますから…」と啓介さん。一回に約1時間、この媒染液に漬け込む。



引き上げると、これが茶染め?と思うほど黒い。これでちょうどいいという。煮出し液への漬け込みが約2時間、媒染が1時間――この染め工程を4回も繰り返す。合計12時間も漬け込むというわけだ。



タテ糸ならこれでいいが、濃いヨコ糸は、この工程をさらに3日間も続ける。約36時間というから、確かに茶染めは難儀やなぁ…という感じだ。



染め上がった糸は、脱水機にかけ、天日干しにする。脱水した時点で少し薄くなったが、それでもかなりグレーっぽい。素人サイドから見たらやっぱり不安だ。



「大丈夫だって…洗い落とした時点の計算は十分にしてあるんだから」と啓介さんはニヤニヤ。この糸を洗うんですか?と聞くと、このまま織り機にかけるという。もういい、仕上がりをじっくり見させてもらおう。

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西ケ崎から、新しい風。「辻村染織のお茶染め」(4)

2時間漬け込んでも、まだ白っぽい。茶染めは辛抱だ。



この煮出したお茶の染液に糸を漬ける。お茶は藍に比べて染まりにくいので、漬け込んだままにしておく。



「藍染めなら、漬けて引き上げるだけでかなりの色が付くけど、お茶は大変ですよ、一回で約2時間ほど漬け込んでおきます。もちろん、これを何回も繰り返すんですけどね。茶染めは辛抱ですよ」と啓介さん。



「難儀なこっちゃなぁ…」と涼しい顔の七代目。憎まれ口をたたきながらも満足気である。

「引っ張り上げてみましょうか。この程度しかまだ染まってないんですよ」と啓介さんは、2時間漬け込んだ糸を引き上げてくれた。薄い茶が、啓介さんが絞ると白っぽくなってしまう。なるほど、これは大変だ。



「そう、だから茶染めには藍染めとは違った工夫がいるんです。藍染めが空気酸化という特殊性を持っているのに対抗して、自然の力が借りられない茶染めは、染め付けを良くするための媒介物を使うのです。これを“媒染(ばいせん)”と言います」


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西ケ崎から、新しい風。「辻村染織のお茶染め」(3)


藍染めと違って染まりにくいから、鉄分の力を借りて色付けを高める。



まず染料のお茶である。

「いろいろ試してみたけど、粉茶が一番染まりやすいですね。もちろん飲めますよ。これに茎なども入った“けば茶”を混ぜます。これを一着1キロの割合で袋に入れて、煮出します」と啓介さん。



話しながら、手は素早く動いている。お茶1キロと簡単に言うが、これはかなりの量。過程にある100グラム入りの茶筒十本分を想像していただきたい。それだけの量でやっと作務衣一着分なのである。



このお茶を煮えたぎった鉄の釜に入れぐつぐつと煮る。時折かきまぜながら、徹底的に色を煮出してしまうのである。



十分に色が出たら、鎖と滑車を使って使用済みの茶葉を取り出す。水分を含んだ茶葉は重い。この鎖と滑車の仕掛けは、七代目のアイディアだという。力技なら十八番の啓介さんも、これには助かったと感謝。七代目の面目躍如である。

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西ケ崎から、新しい風。「辻村染織のお茶染め」(2)


「話を聞いた時は大丈夫かいな…と思ったけど、試作を見たらこれがなかなかのモンでね」と七代目。

よし、完成!というレベルに達したのが今年の二月。商品化のためにはどうしても必要なお茶の仕入れを急ぎ手配しなくてはならない。



「何しろ一枚の作務衣を染めるのに、1キログラムの茶葉がいるんですよ。だから、商品化にはトン単位の手配が必要。それも新茶摘みの前に…」



いくら茶処静岡といっても、トン単位の手配は難しい。この難題解決への救いの手は、啓介さんの母上、七代目の奥さんから差し伸べられた、県内でも有数の茶処掛川出身の奥さんのつてで、掛川の名門老舗茶問屋が快く話に乗ってくれたという。



事を成すのは天の利、地の利、時の利が必要だという。機は熟せりという感じで、啓介さんは突っ走った。



「おやじの刺子作務衣の評判を聞いて、最初に着てもらうのはお宅の会員の皆さんしかないと思ってました。だから、事後承諾になっても…とどんどん作っていますよ」とニッコリ。自信満々の笑顔に、こちらは押されっぱなしである。



小柄で飄々とした七代目に比べ、学生時代に柔道(二段)で鍛えた90キロの体躯は威風堂々。合理的で柔軟な発想の七代目に対して、頑固で思い込んだら一途の啓介さんと、何から何まで対称的な二人である。



「父と息子が入れ替わったみたいだね。でも、作品にこだわりを持っている点はワシも評価するよ。ま、その分苦労も多いだろうけどね…」と七代目。茶染めの分野では、完全に啓介さんに一目おいているようだ。



さて、このあたりで茶染めの工程を実際に拝見させていただこう。待ってましたと啓介さん、すっくと立ち上がる。五体から自信と喜びが満ち溢れている。頼もしい限りだ。

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西ケ崎から、新しい風。「辻村染織のお茶染め」(1)


「倅が“お茶染め”をはじめたときにはおいおい!という感じだったんだけんど、これがなかなかのモンでネ…ウン」



…と、何やら声のトーンが高い七代目。辻村染織七代目、辻村辰利さんである。電話によると、七代目の息子さんが“茶染め”の作務衣を完成させたとのこと。



「一度見に来てくれませんかね。がっかりはさせませんから…」

いつも淡々とした七代目にしては熱がこもっている。西ケ崎に新しい風――何やら手ごたえ十分の予感が走る。



「藍染じゃあおやじにかなわないと思って…」



おっとり刀で駆けつけた遠州浜松は西ケ崎。七代目のかたわらで大きな身体を折り曲げて迎えてくれたのが、今回の主役、辻村啓介さん。七代目のご長男である。



「よう来て下さった。ま、茶でも一服」と通された部屋。初夏のここちよい風が吹き抜け、熱い茶がうまい。挨拶と紹介が終わって話は本題に。ところで茶染めが完成したとか?



「それそれ、倅がね。いやあ、何年か前からこっそりと何かやってるとは思ってたんだが…とうとうやったみたいなんだよ。これならお宅に話をしてもいいと思ってね」と七代目。かたわらの啓介さんを見ながら目を細めている。



「藍染じゃあおやじにかなわないから、何か新しいものをと思って一人で研究してました」と啓介さん、まだ30歳の若さだが、七代目の下で藍染め修行12年のキャリアがある。



七代目に言わせると“超ガンコ者でこだわりを持つ性格”だとか。何かはじめると一途にのめり込んでいくという。茶染めも同様、学ぶものがないためすべて白紙から独自に道を切り開いてきたとのこと。



「まず、いろんなお茶で染めることからスタートしました。染料植物である藍と違って、お茶は染まりにくいんですよ。それに、原料のお茶が多量に必要で…」



三年ほどの苦労の末、ある程度のレベルに達した啓介さん。そこで、初めて静岡県工業技術センターを訪ねる。



「トン単位のお茶の手配には、正直、頭を痛めていました」



そこへ乗り込んだ啓介さん。話を聞いて同センターも諸手を上げて歓迎。これまでの研究資料を全て公開してくれた上、協力を約束。



ここまでくると啓介さんも後にはひけない。七代目にも決意を表明。西ケ崎・辻村を挙げての挑戦となった。

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四十余年の経験と柔軟な感覚が生み出した刺子織の作務衣――燗熟、七代目の技(3)


「今の世じゃ、刺子は防寒でも野良着でもない。だから薄く品よく…」



「手差しじゃ大変でしょ。一着数十万円になってしまう。だから織る。しかし、刺子も野良着から出世したもんだね」



この感覚がなんとも新しい。伝統的な技法や情緒は百も承知の上で、新しい広がりを求めるこの余裕。敢えて“燗熟”と言わせてもらおう。



一見無地に見える刺子織が好きだという。しかし、人には好みがあるから…と白糸を差した柄をさらに肩や衿に加えた作務衣をつくる。3パターンもあれば好みで選べるだろう――という心くばり。決して一人よがりに陥らない。



刺子織でありながらゴワゴワしない。「薄く品よく仕上げる。だって今の世じゃ、刺子は防寒でも野良着でもないんだから…」。このバランスこそ、“技”と呼ぶにふさわしい。



こんな七代目の手になる新作「刺子織作務衣」がいよいよ登場。作務衣の世界にまた新しい輝きが加わるというわけだ。



「一枚でも着てもらえれば、私は嬉しいね」。見送りながらボソッとつぶやく。えっ?と見返すと、目を伏せる。七代目――いい人に会えた。



七代目 辻村辰利

この道、四十一年。代を継いで二十年、現在61歳である。飽きず力まず染めと織りの世界に遊ぶ――という生き方が、独特の味を出している。



カメから引き上げられた白い糸は緑色。空気にふれると徐々に藍の色に変化していく。これが空気酸化。十数回繰り返して色の具合を仕上げていく。

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四十余年の経験と柔軟な感覚が生み出した刺子織の作務衣――燗熟、七代目の技(2)

「藍は子供みたいなもの。毎晩様子を見守ってやらないとダメになる」



染め場に立つ。薄くから濃くまで度合いに応じて8つのカメが並んでいる。よく見る丸いカメではない。七代目のアイデアによる四角い大きなカメである。「藍が沢山入るしね…」とニヤリ。いわゆる凝り固まった職人気質ではない。



染めてみるか…とカメの前に立つ。柔和な顔がキッと締まる。かきまぜるとカメの中は黄土色。白い糸を漬けて引き上げる。緑色になっている。キュッキュッと絞る度に藍色に変化していく。これが空気酸化という現象。自然の植物の葉から生じ、大気により彩りをつける――まさに藍染の醍醐味の瞬間である。



「藍は生き物。目を離すことなく見守ってやらにゃならん」

毎晩、カメを見回る。だから、七代目のカメには火を起こす穴が付いている。染め場の壁や屋根はススが層になっている。柔軟で合理的な七代目のやり方も、すべて藍に対する愛情から出ている。



まさに“藍情物語”ですね…と軽口を叩くと、七代目は照れた。

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四十余年の経験と柔軟な感覚が生み出した刺子織の作務衣――燗熟、七代目の技(1)


産地を訪ねて――西ヶ崎



JR浜松駅から車にゆられて30分あまり、西ヶ崎に着く。この地は古くより、いわゆる“遠州”の通り名で知られる織物の里である。

この西ヶ崎で染織の老舗として代を重ねているのが、本日訪れる辻村染織。門を入るときれいに刈り込まれた松が目に飛び込んでくる。昔ながらのたたずまいを残した工舎が点在している。

自宅玄関前に、七代目はいた。



「何でも土台が大事。だから、刺子織でも染にリキが入るね」



辻村辰利さん。七代目当主である。職人気質の気難しさなどはかけらもない。腰が低く実に柔和。それに大の付く照れ屋である。



常に新しい作務衣づくりを求めている伝統芸術を着る会の耳に飛び込んできた風の便り。「遠州に刺子の作務衣あり…」



すぐに開発スタッフが西ヶ崎に駆けつけたのが事の始まりであった。四十余年の技術と経験を持ちながら、柔和な感覚の持ち主である七代目辻村さんの作品の素晴らしさに話は急展開。当会の作務衣づくりに対する姿勢に共鳴してくれた七代目と意気投合の結果、画期的とも言える「刺子織作務衣」が日の目を見たというわけである。



茶を飲みながら、しばしの談笑。「そろそろ参りますか」。不意に立ち上がった七代目。技のほどを見せてくれるという。



「白糸の模様を映えさせるためにも、土台となる染めが大切」という七代目。刺子に一番適した色の度合いは微妙だという。



「浅葱(あさぎ)じゃ薄く、紺までいくと濃いし。藍と縹(はなだ)の中間というところでしょう」



つまり、この藍地の色合いの出し方…これが技のひとつである。「どうしても白糸の方に目が行くけど、リキが入るのは、やはり染めだね」

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古代の浪漫 泥染(2)


せわしい世の中にあって古代に夢馳せる贅沢。



素材はもちろん天然の恵み豊かな綿100%を採用。その無垢な素材を、藍にて一度薄く染め、その上からりょくばん酸化第一鉄を含んだ泥を用い、媒染に特殊な石灰を使いながら染色。



そこから、えもいわれぬ素朴な温もりを放つ彩りが生まれたのです。いや、何千年ぶりに蘇ったというのが正解…。



しかも、これも先人の知恵の賜物なのでしょうか、泥には多くの鉄分が含まれており、まとうだけで身体にいい影響を与えてくれます。



群馬県にある有名な温泉地、伊香保温泉がその顕著な例で、赤茶けた不透明なお湯は鉄分の多い証拠。昔から「伊香保温泉は皮膚病に良い」と言われ、お湯につかったり赤茶けた手ぬぐいやタオルを持ち帰り、それで浴衣や寝間着を作ると蚊や虫を防ぐ効果があったとか…。



科学染料を一切使わず、いわば無農薬製法とも呼べる純な工程から生まれた「泥染作務衣 古代茶」。

もちろんすべてが手染めのため、一着ずつの仕上がりが微妙に違います。だからこそ手に入れた一着は、世界でただひとつ、その方だけの一品。



汚れを知らない弥生、縄文時代の人々の無垢な息吹を肌で感じながら、古代に思いを馳せつつ静かな時を過ごす…。

せちがらい世の中だからこそ、そんな心の贅沢を存分に愉しんでいただきたいと思います。

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古代の浪漫 泥染(1)


古代びとが夢見たお洒落の原点。大地の温もりを伝える染めがここにある。弥生、縄文人が見に付けた染を遂に復刻!

私どもではこのたび、古事記や万葉集にもすでに記されているほど古く、染めの原点とも呼ぶべき土染め(はにぞめ)と呼ばれる古代染色技術の復刻を遂に実現しました。



土に含まれている鉄分など、様々な成分が作用していて、実に素朴で深みのある独特の色合いを醸し出すその染めによる彩りは絶妙そのもの。古代びとの浪漫を秘めた、幻の染めの一着をご覧あれ。



大地を着る。太古をまとう。これぞ温故知新。



新作に用いられた泥染めの基本となった土染め(はにぞめ)は、近年では東京都町田市の和光大学講師であり、古代技術の研究を専門とする関根秀樹氏が復元に取り組み、マスコミなどで取り上げられ話題を呼びました。



そして遂に今回、その古代の浪漫あふれる染めを復刻し、作務衣としての開発に成功したのですが、実はそのきっかけは、記事を目にした当会のご意見番からの叱咤激励でした。



「これこそお宅が挑戦するにふさわしい技。素朴そのもので、しかも太古の浪漫にあふれている。弥生時代や縄文時代に生きた人たちが身にまとった彩りをまとえるんだから、考えただけでワクワクしてくる…。さあ、ぐずぐずしないで始めようじゃないか」



そしてこの秋、遂に完成した作務衣はこれまでスタッフの誰もが目にしたことのない、素朴でいながら、どこか力強さを感じさせる一着。それは、私どもにしか創れないという強烈な自負もあったからです。染めの原点を復刻し、古代びとのお洒落心をも現代に蘇らせた、「泥染作務衣 古代茶」の誕生です。
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土布香雲染(どふこううんぞめ)について


豊かな自然の恵み、完成を鳴り響かせる意匠。着る方を選ぶ一着。話題騒然、自然派志向の貴重な生地と染め



和装の世界でいま、大きな注目を浴びている織りと染め、それが「土布(どふ)」と呼ばれる生地と、「香雲染め」です。

話題の要因は、豊かな自然志向と希少価値。



「土布」とは木綿の太糸を用いた粗布のことで、手紡ぎ、手織で丹精込めて織り上げられたその大らかさと素朴さは、作り手たちの温もりを実感させてくれます。



「香雲染め」は植物の根などを用いる単なる草木染めではなく、根はもちろん、葉、そして泥を用い、太陽の光にさらして実に長い時間をかけて染め上げる、まさに自然の恵みをすべて注ぎ込んだ究極の染め技法。その貴重さは、泥染めで有名な、あの大島さえ越えるといわれています。



この出会いはセンセーションを巻き起こすこと必至



「土布」と「香雲染め」、その両者をひとつに採りいれた作務衣が完成したというのですから、これは作務衣愛好家はもとより、和服の世界でも大きな話題を呼ぶことは必至です。

豊かな天恵を人知を駆使して仕上げた意匠は、作務衣も遂にここまで来たか、と思わず羨望のため息が出るほど。



この、和の金字塔とも言うべき一着に袖を通す幸運な方は、一体どなたなのでしょうか。


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樹木染め 天竜杉染め(4)


樹皮模様に織り込んだ杉の葉のイメージ!



仕上がりは、あたかも樹の皮を想わせる模様に織り上がりました。さらに目をこらしていただくと、緑が細かく混じっていることに気づかされるはず。杉の葉のイメージを織り込んでみました。ヨコ糸に何本に一本という計算で緑の糸を飛び込ませたのです。

つまり、この樹木染作務衣は、一本の杉の木のすべてをトータルに表現しているのです。



恒例となったモニターによる試着会の場で、モニターの一人が「森林浴の匂いがする!」と言い出しました。匂い付けなど全くしていないのに…。これは、目が感じた樹木の香りだったのです。

それほどに、この作務衣は、樹皮の再現がなされているということ。私どもの自信はさらに深くなったことは申すまでもありません。



樹の皮で染める――このこと自体が画期的な上に、あたかも香り立つが如き、樹木の表情の再現。大汗をかきながら杉の皮を煮詰めた職人も、あたかもキャンバスに絵を描くように樹木を表現した織り職人も、この作品の完成には大満足の様子。



「樹ならヤマとあるからな…」との励ましの言葉を背に、この樹木染作務衣「天竜」を、世に問います。

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樹木染め 天竜杉染め(3)


煮出した染液に何回も漬け込んだ上に…



杉丸太の樹皮が、一枚一枚手によって剥がされていきます。そして、この樹皮をさらに細かく刻んでいき、刻まれた皮を布袋に入れて煮詰めます。すべて手作業、屋外にて豪快にグツグツと煮詰め、杉皮の液を煮出すのです。この液を絹の布でこして染液の完成です。



この染液に綿糸を幾度となく漬け込んで染めるわけですが、色付けや色落ち防止のための特殊な媒染がなされ、樹木染めの糸が完成します。



この糸を使い、いかに織り上げるか。

作品の真価は次の織り工程にかかっています。樹皮で染めた糸でタテ、ヨコ織ったとしても、それはただ茶色がかった平板な布地にしかなりません。



緻密な計算と芸術的な感覚により、まさに樹皮を着るが如き作務衣に仕上げなければならないのです。
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樹木染め 天竜杉染め(2)


樹の皮で染める――自然を纏う感覚が五体を走る。万葉百彩の旅、天竜へ。



藍の葉に始まり、草や花、そしてお茶の葉まで歩を進めた「伝統芸術を着る会」のライフワーク、万葉百彩の旅。

まだ、染めるべき素材は身近にありながら、天の声に導かれるように静岡県天竜市へ飛びました。その目的は、この地にて行われている樹木染めへの興味でした。



天竜は、奈良の吉野、三重の尾鷲と並び日本三大美林のひとつに挙げられるほど。特に、当地の杉林は昔から有名なところです。



県や市をあげて研究、開発した樹木染め!



この地において、静岡県科学技術振興財団が実施している“天竜杉染め”の評判は、以前から当会にも届いていましたが、時期尚早との考えで私どもも二の足を踏んでいたのです。



ところが、いちばん新しく送られてきた試作品を見てびっくり。飛躍的に高まった品質に当会の開発計画は一気に樹木染めへと進んだのです。



天竜へ来て、その成功の秘密が理解できました。それは、染色素材である杉が豊富なため、色のバラつきが少なく、色目の統一や安定が可能なこと。さらに産・学・官の共同研究により、繊維に染まりにくいという杉の欠点を、特殊な媒染剤により克服していることに尽きます。この媒染の方法は、俗にいう企業秘密。公開はできません。なにせ、長い期間にわたる試行錯誤の結果に得たノウハウですので、その点はご了承下さい。



工程は、まず杉の木の伐採から始まります。色目を統一して木を選び、丸太にしていくのです。

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樹木染め 天竜杉染め(1)


樹木への想い――



その陽なたで本を読んだ。

昼寝もした。

旅人はひとときの涼をとった。

木登りは少年を男にした。

少女は花飾りを編んだ。

ざわめく葉音に畏怖を感じた。

幹に名前を刻んだ。

爺さまは毎日拝んでいた。

昆虫や虫たちの宿屋だった。

風や雨や雪を許していた。

矢や弾丸がかすめたこともあった。



広く根をはり、びくともせず、歴史を見ていた。

愛しながら、敬いながら、人はそのふところに抱かれた。



その時代ごとに――樹木はオヤジだった。



樹木のある暮らし…それは誰もが望む自然回帰への本能です。



樹齢何百年という大樹を目の前にした時、私たちはとても懐かしい想いがします。同時に、なぜか身のすくむような感じもあわせ持つものです。海がヒトの胎内なら、森はヒトの父親だった――そんな気分におちいります。



ヒトと樹木の付き合いは、ヒトの歴史を物語ります。樹木が与えてくれる恩恵は、精神的なもの物理的なものを合わせると、それこそ計り知れないものがあります。



こんな樹木への思いを込めて、特集テーマは“ウッディ・ライフ”、つまり“樹木のある暮らし”です。

といっても、当会のテリトリーから考えても大層なことはご提案できるわけがありません。しかし、せめて「樹木への想い」をできるだけ形にしたいと思いました。

万葉百彩シリーズの一環として、今回は「樹木染め」。そうです、樹木による染め技法を皆さまにご披露したいというわけです。



心や目で感じる樹木の香り、樹木をまとう感覚から生じる自然回帰。新しい世界の広がりを、ぜひお試し下さい。

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